新潟地方裁判所佐渡支部 昭和46年(ワ)3号 判決 1971年11月29日
原告
渡辺長一
ほか七名
被告
本間輝夫
ほか四名
主文
一 被告らは連帯して、原告渡部長一に対し金一〇八万六、九二五円および内金七五万六、九二五円に対する昭和四六年二月一日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員、原告渡部芳江、同渡部春江、同渡部鉄男、同渡部昭三、同渡部紀子に対し各金四三万二、二六九円、原告佐々木音蔵、同佐々木ツルに対し各金二〇万円および右各金員に対する昭和四六年二月一日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は三分し、その二を原告ら、その余を被告らの各負担とする。
四 この判決は右一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一双方の求める裁判
一 請求の趣旨
(一) 被告らは連帯して原告渡部長一に対し金四一四万二六円、同渡部芳江、同渡部春江、同渡部鉄男、同渡部昭三、同渡部紀子に対し各金一三五万六、〇一〇円、同佐々木音蔵、同佐々木ツルに対し各金五〇万円および右各原告について右各金員に対する昭和四六年二月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに第一項につき仮執行の宣言を求める。
二 被告らの求める裁判
(一) 原告らの請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二請求の原因
一 (当事者)
原告渡部長一(以下長一という)は訴外亡渡部イシ(大正一五年九月六日生、以下イシという)の夫、同佐々木音蔵、同ツルは父母、その余の原告らは同人と長一との子である。
二 (不法行為)
被告本間輝夫(以下輝夫という)は、昭和四五年八月一三日午後一〇時一〇分ころ普通乗用自動車(品川五や七〇八五号、以下被告車という)を運転して県道相川・両津線を相川方面から両津方面にむけて進行し、佐渡郡相川町下戸町七〇番地先路上(通称万長ホテル横交差点)にさしかかつた際、折から同交差点手前横断歩道を進行方向左側から右側に横断歩行していたイシに対し、自車前部を激突せしめ、よつて同人をして頭蓋底骨折等の傷害により同月一四日午後五時四〇分ころ相川病院において死亡するに至らしめた。
三 被告輝夫は被告車を自己のため運行の用に供していた。
四 (損害額)
(一) 積極損害 小計金一七万三五三円
(1) 入院治療費 金五万七、八一三円
(2) 遺体保存費 金二万三、六一〇円
(3) 葬儀費 金八万八、九三〇円
(二) 逸失利益
(1) イシは、事故前相川町大字二町目二番地旅館業「たつみ屋」こと松田一夫方に手伝として勤め、日給金一、二〇〇円を得て少なくとも一ケ月二五日間は就労していたから、これが一年間の収入は金三六万円となる。
(2) イシは、夫長一とともに農地約一九八三平方メートル(六反歩)を耕作し、一ケ年につき約金二九万円を得ていたが、これから必要諸経費を差引いても、少なくとも年間の純益は金二四万円を下らない。しかるところ、夫長一が鉱業会社に勤務していることから、農作業の殆んど全部がイシに委ねられており、これが労働寄与率を八割とすると、イシに関する年間農業純収益は金一九万一、〇〇〇円となる。
(3) イシは死亡時四三才の健康な女性であつたから、少なくとも向後二〇年間は就労可能であり、右(1)(2)の合算額から生活費として金一四万四、〇〇〇円を差引いた年間純収益額金四〇万七、〇〇〇円を基準値としてホフマン式計数表により将来の得べかりし利益を算出すると、その額は金五五四万一、七一二円となる。
(三) 慰謝料
前述のとおり、イシは四三才の健康な女性であり、夫および五人の子とともに幸福な毎日を送つていたところ、被告輝夫の一方的過失により、重傷を負わされ、約二〇時間苦しみぬいたあげく、いまだ若い生命を奪われたものであり、その精神的・肉体的苦痛は甚大であり、これを慰謝するには金五〇〇万円をもつて相当とする。
(四) 自賠責保険金の受領
右のとおり、イシの損害額は金一、〇七一万二、〇六五円であるところ、自動車損害賠償責任保険から被害者請求により金五〇四万一、九八五円の支払を受ける見込であるので、その実質損害額は金五六七万八〇円となる。
(五) 相続
右イシの損害賠償請求権を同人の死亡により夫長一がその三分の一たる金一八九万二六円を、子芳江、春江、鉄男、昭三、紀子がそれぞれその一五分の二たる各金七五万六、〇一〇円を相続により取得した。
五 (固有の慰謝料)
原告らは、被告輝夫の不法行為により、突然にしてそれぞれ愛妻・子・母親たるイシを奪われ、著しい精神的打撃を与えられた。この苦痛は現在および将来的にも甚大なものというべく、これを慰謝するには、原告長一において金一六〇万円、同佐々木音蔵、同ツルにおいて各金五〇万円、その余の原告らにおいて各金六〇万円をもつて相当とする。
六 (連帯保証契約)
被告本間兼吉は輝夫の父であり、同源次郎は兄であり、その余の被告らはいずれも同人の知人であるところ、同人らは、昭和四五年八月一六日、原告らに対し、第二項記載の不法行為により発生した損害額全部の支払いについて輝夫に連帯して保証することを約した。
七 (弁護士費用)
原告長一は原告代理人らに対し、同四六年一月八日、着手金として金一五万円を支払い、かつ本件勝訴の際に報酬金として金六〇万円を支払うことを約した。
八 (結論)
よつて、原告らは、被告らに対し、連帯して請求の趣旨記載のとおりの各金員および右各金員に対し、被告山路直一に対する本訴状送達の日の翌日である昭和四六年二月一日より完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三請求原因に対する認否
一項は不知項のうち、衝突地点が横断歩道上である点を除き認める。二三項は認める。四項中(一)ないし(三)は争う。同項(四)(五)は不知。五項は争う。六項中輝夫とその他の被告との続柄については認めるが、連帯保証の事実は否認。七項は不知。八項は争う。
第四被告らの抗弁
一 (過失相殺)
イシは本件事故現場附近に設置されてある横断歩道を通らず、その少し手前を通つて道路を横断し、かつ、左右をよく視ず横断した過失があるので、右を過失相殺すれば輝夫の負担すべき債務はない。
二 (連帯保証契約について)
(一) イシの通夜の日原告の親族片桐武夫が甲第一号証類似の書面を差出し、「これは裁判所へ出しても役に立たない書面だ、明日印判を押せ。」と被告らに渡し、被告本間源次郎が預かつた。帰宅の頃は夜もおそくなり、かつ被告輝夫、同本間源次郎、同本間勘太郎は全く財産無く、本間兼吉は建物宅地の外田四反歩畑一反歩だけ所有し、山路直一は建物宅地の外田二反歩だけしか所有しておらず、印判を押して何等か責任を負うことになれば被告らの家族は生活出来ないことになるので印判を押す気もないので、話し合うこともせずそのまま帰宅した。翌日葬式が終り片桐武夫が甲第一号証を差出し、被告らの姓名は皆本間勘太郎が書き、片桐が「拇印を押さないと帰つてはこまる。」と云つたので被告らは自己の姓名の下に拇印を押して帰つたものである。
(二) 従つて、被告らは連帯保証の意思も表示意思もなかつたもので、甲第一号証は無効である。
(三) 仮に、右が理由なしとしても、被告らは何ら法律知識もなく、連帯保証の意義も知らず何人も甲第一号証の説明もせず既に内容の記載のある甲第一号証を差出し、通夜の時「裁判所へ出しても役に立たぬ」又「これは示談の下準備だ」と云い、被告らをしてかく信ぜしめた。被告らのなした行為は要素の錯誤により無効である。
(四) 仮に、右が理由なしとしても、甲第一号証は金額の記載なく、被告らは客観的確定と云うことも知らず、無限大の債務を負うこととなり無効である。
(五) 右が理由なしとしても、通夜の日片桐が「これは裁判所へ出しても役に立たない」といつたのは長一と相談の上詐欺したものであり、葬式の日片桐が「拇印を押さないと帰つてはこまる」と云つたのは強迫である。よつて、被告らは本訴においてこれを取消す。
三 (一部弁済)
被告輝夫は昭和四五年八月二五日頃原告らに対し本件損害賠償金として金二〇万円弁済した。
第五抗弁に対する原告らの認否
二については全て争う。三は認める。
第六証拠関係〔略〕
理由
一 請求原因二項のうちの衝突地点を除いたその余の事実、三項の事実は当事者間に争いがない。従つて、被告輝夫は自賠法第三条に基づき本件事故による損害を賠償すべき義務があることは明らかである。
二 連帯保証契約の成否および効力につき判断する。
(一) 訴外本間ソヨ、同本間キヌ子作成部分を除き〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
原告長一の親戚関係にある訴外宇田繁教、同片桐武雄らは原告長一と相談のうえ、被告輝夫が若年であり資産もないものと思われたので、後日損害賠償請求やこの示談に資するため、被告輝夫の親族らより確認書を徴することを企図し、イシの通夜の晩である昭和四五年八月一六日に確認書と題し甲第一号証と類似した内容の文案を片桐武雄が書き、被告輝夫の親族に示し署名押印を求めたが、その日は検討するということで被告本間源次郎が受取り持ち帰つた。
翌八月一七日葬式の後、原告長一の隣家の訴外本間源蔵方において、原告側より原告長一、片桐ら約一〇名、被告側より被告輝夫、同本間兼吉、同本間源次郎、同本間勘太郎、同山路直一ら約一〇名位の者が会合し、片桐が甲第一号証の住所、署名部分を除き既に内容の記載のある確認書を提出し、朗読したうえ被告側に署名押印を求めた。被告側の者は別室において相談することとなり、別室において被告本間勘太郎が朗読し協議した結果、被告輝夫と血縁の濃い者五、六人だけ署名することとなり、原告長一の面前において被告本間勘太郎が甲第一号証上に自己の名および被告輝夫、被告本間兼吉、被告本間源次郎、同山路直一、訴外本間ソヨ、同本間キヌ子、同山本利夫、同金子惣一郎、同佐々木晴治、同佐々木春吉の氏名住所を記載したが、上記訴外人のうちにその場に出席していなかつたソヨ、キヌ子があり、又家庭の都合から押印を拒んだ者がいたため、被告輝夫、同本間兼吉、同本間源次郎、同本間勘太郎、同山路直一が各名下に拇印を押し、甲第一号証を完成して、原告長一に交付した。右甲第一号証には「一、事故発生より死亡までの治療費及びこれに伴う経費一切。二、葬祭費及びこれに伴う経費一切。三、生きていれば当然得られるはずの収入補償費其の他一切。四、精神的慰謝料」について、加害者はじめ保証人は連帯し一切の責任を負う旨の記載がある。
右認定事実によれば、被告輝夫を除くその余の被告らは被告輝夫の債務につき連帯保証をなしたことが認められる。
(二) 被告らは連帯保証の意思、表示意思がなかつたから無効であると抗弁するが、右認定の事情によれば、被告らは甲第一号証の内容を了知して署名押印したものと認められ、右甲第一号証には明確に連帯保証をなす旨の記載があることから、右抗弁は採用できない。
(三) 次いで、要素の錯誤の抗弁について判断する。たとえ、原告側の者が、「裁判所へ出しても役に立たぬ」又は「示談の下準備だ」と云つたとしても、示談の成立しない場合は訴訟上争われることは当然であり、被告らは法律知識がなかつたとしても、連帯保証ということは広く日常に使用されていることであるから裁判上効力のない保証契約なるもののあり得ないことも承知していたものと解さるべきで、本件連帯保証契約には要素の錯誤は認められない。
(四) 詐欺による取消しの抗弁についても、右同様の理由により採用し難い。
(五) 強迫による取消しの抗弁についても、たとえ、片桐が被告らに対し「拇印を押さなくては帰つてもらつては困る」と云つたとしても、強迫に当るとは認め難い。
(六) さらに、被告らは甲第一号証に金額の記載がないから無効であると主張するが、前(一)に認定したとおり、治療費から精神的慰謝料までの各項目の記載があり、これにより金額が確定し得るはずであるので、無効とはいえない。
三 過失相殺の抗弁について
〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
本件事故発生地附近の道路は相川方面より両津方面に向う幅員九・五メートルのコンクリート舗装のされた道路(以下本件道路という)と二見方面から羽田方面に向う幅員四・八メートルと四メートルの舗装された道路の交差点であり、各交差点の本件道路上の両津側に横断歩道が設置されているが、信号機の設置はなく、夜間やや明るい。被告輝夫は事故当日午後七時半から八時半まで友人宅でビール二本を呑み、友人の運転で被告車に乗りドライブした帰途、事故地点約二〇〇メートルの手前のところから自ら被告車の運転を始め時速約三〇粁で両津方面に向つて本件道路を進行中、本件交差点の手前一四~五メートルの地点にさしかかつた際、先行する乗用車が交差点手前において徐行し停車しようとしたが、前方を十分確認することなくその右側を時速約三〇粁で追越しを始め、右先行車と併進状態となつたとき、本件道路上の両津側横断歩道附近を羽田方面より二見方面に向つて横断中のイシを約七メートル先に発見し、ブレーキをかけても間に合わないと思つてハンドルを切つて避けようとしたが及ばず自車左前部をイシに衝突させ転倒させた。一方イシは前記横断歩道を通らず横断歩道より約二メートル内側を横断した。
以上認定事実によれば被告輝夫には飲酒のうえ運転し、交差点の手前より追越しを始め、前方を確認しなかつた過失があることが明らかであり、一方イシには横断歩道を横断すべき義務に違反した過失が認められ、その過失割合は被告輝夫につき九〇%、イシにつき一〇%と認めるのが相当である。
四 (一) 〔証拠略〕によれば、原告長一は本件事故によるイシの町立相川病院入院料、死亡診断書代、車代、受傷時の洋服と着更えにネマキ代、氷代等として金四万九、五一五円支払つたことが認められる。
(二) 〔証拠略〕によれば、原告長一は遺体保存費として金一、八八〇円支払つたことが認められる。
(三) 〔証拠略〕によれば、原告長一はイシの葬儀費として金二六万円を超える出費をしたことが認められるが、このうちイシの葬儀費としては同人の社会的地位等に照らし金二〇万円が相当と認める(本訴において原告らは葬儀費として金八万八、九三〇円の請求をなすが、死亡による損害には一個であると解されるから、裁判所は各個の費目別の請求額に拘束されることはなく、原告ら全請求額の範囲で他の請求費目より補充して自由に認定し得ると解する。)。
(四) 〔証拠略〕によれば、イシは昭和四四年四月より事故当時まで旅館業「たつみ屋」の女中として勤務し、昭和四四年四月より同年一一月までの給与が金二八万三、四五〇円であり、同年一二月一日失業保険金を貰うため退職し、翌年三月まで一日一、一〇〇円ずつ九〇日分の失業保険金を得たことが認められる、従つて、イシの女中勤務による一年間の収入は原告らの主張するとおり金三六万円と認めるのが相当である。
〔証拠略〕によれば、イシは原告長一と共に田約四反、畑約二反五畝を耕作し、田より米約三二俵(反当り八俵)生産し、一俵約八、三〇〇円であつたこと、畑より約二万五、〇〇〇円(反当り一万円)の生産物があり、これらに要する肥料、農薬費、燃料費等の経費は約五万円であつたこと、原告長一が鉱山会社に勤めており、春に耕転機で田を打つ程度で農作業の大部分はイシが行なつていたことが認められ、右事実によれば年間農業純収益は約金二四万円であり、イシの労働寄与率は八割とするのが相当であり、イシに関する年間農業純収益は金一九万二、〇〇〇円となる。
従つて、イシの年間収益は金五五万二、〇〇〇円となるところ、同人の生活費は右収益の三〇%程度と認めるのが相当であるので、これを控除すれば金三八万六、四〇〇円となる。そして〔証拠略〕および同人の戸籍謄本によれば、イシは当時四三才で、健康であつたことが認められるので、向後二〇年間就労可能であつたとみるのが相当であるので、右金額を基礎にしてホフマン式年別複式の方法により中間利息を控除すれば金五二六万円(金一万円未満切捨)となる。
(五) 原告らはイシの慰謝料を相続したものと主張するが、慰謝料請求権は一身専属的なもので、当該請求権者の行使がない限り譲渡性がないことはもちろん相続の対象となり得ないものと解するを相当とする。かく解しても被害者の近親者である父・母・子・配偶者が固有の慰謝料請求権を有するのであるから被害者の保護に欠けることはない。
(六) 以上の(一)ないし(三)は原告長一の損害でありこの合計金二五万一、三九五円となるところ、前記三に認定したイシの過失を斟酌すれば金二二万六、二五五円となり、右(四)の逸失利益金五二六万円に同じくイシの過失を斟酌すれば金四七三万四、〇〇〇円となる。
(七) 〔証拠略〕によれば、同原告はイシの夫、原告芳江、同春江、同鉄男、同昭三、同紀子はいずれもイシの子であることが認められ、原告長一は右イシの逸失利益の三分の一である金一五七万八、〇〇〇円を、原告芳江外四名の子は各金一五分の二である金六三万一、二〇〇円ずつ相続したことになる。
(八) 原告長一の戸籍謄本によれば原告佐々木音蔵、同佐々木ツルはイシの父母であることが認められる。そして原告ら全員はイシの死亡により夫、子、父母として精神的苦痛を受けたことは明らかであるので、本件事故の態容、前記三において認定したイシの過失の程度、その他一切の事情を考慮し、原告らの受くべき慰謝料は原告長一において金七〇万円、原告芳江、同春江、同鉄男、同昭三、同紀子において各金五〇万円、原告音蔵、同ツルにおいて各金二〇万円とするのが相当である。
(九) そこで、原告長一の損害額は金二五〇万四、二五五円、原告芳江、同春江、同鉄男、同昭三、同紀子の損害額は各金一一三万一、二〇〇円、原告音蔵、同ツルの損害額は各金二〇万円となるところ、原告らは、イシの死亡により自賠責保険金五〇四万一、九八五円の支払を受けることを自陳し、被告輝夫より金二〇万円の弁済を受けたことは当事者間に争いがない。この弁済の充当関係に特段の主張立証のない本件においては、右合計金五二四万一、九八五円につき原告長一においてその三分の一である金一七四万七、三三〇円を充当したものと見るべきで、これを同人の損害額より控除すれば残額は金七五万六、九二五円となり、原告芳江、同春江、同鉄男、同昭三、同紀子において各一五分の二である金六九万八、九三一円ずつを充当したものと見るべきで同原告らの損害額から控除すれば、残額は各金四三万二、二六九円となる。
(一〇) 原告長一が本訴提起を原告ら訴訟代理人に委任したこと本件記録上明らかであるので、このために要した着手金および本訴終了後支払わるべき報酬金等の弁護士費用のうち被告らに賠償を求めることのできるのは認容額の約一割である金三三万円が相当である。なお、弁護士費用の請求については現実の支払のない部分があるので遅延損害金の請求は失当であると解する。
五 よつて、被告らに対する本訴請求のうち原告長一の金一〇八万六、九二五円および内金七五万六、九二五円に対する被告山路直一に訴状の送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和四六年二月一日から支払済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分、原告芳江、同春江、同鉄男、同昭三、同紀子の各金四三万二、二六九円およびこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求める部分、原告音蔵、同ツルの各金二〇万円およびこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求める部分をいずれも正当として認容し、その余はいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 荒井真治)